ショットなストーリー

一枚の写真から浮かぶショートストーリー

灯台島の悲劇

 

 

f:id:higeozira4242:20190507125914j:plain

灯台

               1             

 数十年前の話である。

 その灯台は離れ島にあった。

 本島から船で2時間、周辺1㎞の小さな無人島は、海峡が激流のため航海安全用に灯台が設置されていた。3名の灯台守が3か月分の食料、燃料などを積み込み灯台を管理・運営していた。

 3月から3か月間、春の季節の灯台守の3人は、KとMとSだった。

 Kは灯台守職25年のベテランで三名一組の主任である。Mは灯台守職10年の中堅で、おもに技術職である。Sは灯台守職1年目の若手で、記録その他の事務職を受け持っている。

 三名は官舎の中で寝泊まり自活しながら、これからの3か月間、灯台の点灯運営を行っていくのだ。

 朝は早くから起き定期点検を行い、灯台に昇り照明レンズ(ライト)を磨き、回転軸の作動を確認し夜の点灯を確実なものにするのだ。電機は自家発電であり、モーターの起動で夕方になるとライトがつき、明け方になるとライトを消す。夜は航海安全のため、どんなことがあってもライトを照らし続けなければならない。いざという時は、一日中レンズの番をしなければならない夜もある。

 官舎の中にはキッチンがあり、三名分それぞれの小さな個室の寝室があり、キッチンにつながる事務室でそれぞれの職務を行う。電話はなく、電波の通信機で本島や航海上の船と通信していた。

 三名が赴任した3日目の夜は嵐が吹きすさぶった。春の嵐だろう、かなりの風で海は荒れていた。三名は眠れぬ夜に荒れる波音を聞きながら朝をむかえた。

 翌朝三名は、嵐の後の灯台の点検のため島の周辺を見回った。灯台の周りには、風に吹きつけられて方向を見失った海鳥が、ライトに引き寄せられ、灯台にぶつかってしまったのだろう、かなりの数が死骸となって散らばっていた。

 三名は、鳥の死骸を拾い袋に詰め、近くの土地に埋めた。その後、何か異変がないか島の周辺を見回した。Sが、島の北側の絶壁の下の小さな入り江に、ボートが岩礁にせき止められて漂っているのを見つけた。

 その船には、かなり大きな木箱が積まれているが、人の気配はない。若いSが、ロープを体に括り付け崖下に降りて調べることになった。ボートの周辺を探索するが誰もいない。木箱を見ると頑丈そうで、錠前カギでしっかり施錠されていた。

 動かしてみるとかなり重く、一人では担げそうもない。Sは上の二人に合図して、木箱をロープで縛って持ち上げることにした。

 二人はどうにかしてロープを手繰り寄せ、木箱を崖上に持ち上げることができた。Sもロープで崖上にあがり三人で木箱を宿舎に運んだ。三人でやっと運べるほどの重さだった。

 三人は木箱をどうしようかと思案していたが、主任Kの言葉で中を見ることを辞めた。

「これは、何か訳がありそうだ。遭難した船からの漂流物かもしれない。本島に帰って会社の連中に渡した方が安全だ。危険なものかもしれないから、このままにして、次の交代の船で運ぼう」

  MとSは好奇心に駆られ中を見たかったのだが、ボスの言葉に頷くしかなかった。漂流物はまず、本社に報告するのが筋だが、持って帰るとの結論に誰も報告しようと言い出すものはいなかった。なにか、きな臭い感じがするので三名は黙っているのだろう。

 古びた木箱は、四隅が頑丈な鉄枠で保護され、さらにところどころ金具で固定されていて、まるで海賊映画に出る「財宝箱」にように見えた。中には金の延べ棒が何十枚も入ってそうである。

 数億円の金塊!

 一瞬、三名の脳裏に同じ映像が浮かんだ。

 だが、三名はそれぞれの思惑を胸に秘め、何事もなかったように自分の職務に専念するのだった。自分のいつもの仕事をするのだが、なぜかつい目が木箱の方に向いてしまう。

 夜になって、三人は自分たちの寝室で寝た。木箱が気になってなかなか寝付けない。自分の以外の誰かが、抜け駆けして木箱を開けてしまうかもしれない、寝ているうちに中身をどこかに隠すかもしれない、と落ち着いて寝ていられない。夜中にそっと起きて、木箱の存在を確かめては安心して寝床に就くのだった。

 三名は、昨日に続く心の嵐に惑わされ、眠れぬ夜を過ごした。

 ・・・

 Kは結婚していて、妻と高校生の娘と中学生の息子がいる。これから子供たちの進学を考えると、大分の教育費が必要であり、数年前に建てたマイホームのローンもかなり残っている。妻はパートの仕事をしているがそれほどの収入にはなっていない。Kはいつも、これからの生活に不安を感じている。

 Mは妻と生まれたばかりの小さな息子がいる。妻が子育てに夢中になって、自分のことを構わなくなってきた。気晴らしに始めたパチンコにはまってかなりの借金をしてしまっている。パチンコのことは妻には内緒であり、マイホームをつくるための積立金を少しずつ借金の返済に充てている。表面上、生活の不便さには表れないが、そのうち生活がパンクするのは目に見えている。Kは、何としても金が欲しいと思っている。

 Sは大学を卒業して、運よくこの仕事につけたのだが、家が貧しかったので親の援助がなく、大学の学費、奨学金など借りられるだけ借り、バイトで自活してきた。借金がかなりあり、他の同じ年代の若者が遊び廻っているのを見ると羨ましく感じる。Sは、金の必要性をいつも考えていていた。

 ・・・

 眠れぬ夜が明けた。

 事務所には朝日が差し込んでいる。その朝日の先にある部屋の隅にあるべき木箱はどこにもなかった。