金豚が空を飛んだ 2
酔いもまわってきた僕はなんだかいい気分になっていた。ここは、ほら話が流通する場所である。あるいは、礼儀としてまず自分のほら話を一篇語るべきかなと変な納得をした。
僕は二人に向かってほ次のような話をした。
「ある日のことです。僕は夜中に起きてみると家の外にまばゆい光が溢れているのを見たのです。家族のだれもがまだ寝ているので、その光に気づきません。近所の人々もいつものように静かに寝静まっていました。
ぼくだけが、なぜか、その光に反応して起きだしてしまったのです。外は、光のあたっている部分以外は暗く、まだ夜が明けてない状態でした。だから、その光は太陽の光ではなく、ましてや町の街灯などでもなく、上空から一方的に光が円錐形状に発射されているようでした。
その光の奥に楕円形の円盤のような物体が宙に浮かんでいたのです。その物体は、ヘリコプターのホバリングのように軽く上下しながら、宙に浮かんでいるように見えました。かなり大きく、体育館ぐらいの大きさでした。
ぼくだけが、外に出てその謎の物体を見たのです。僕は驚きながらも、好奇心にかられ何も考えずに、ただその物体の近くに歩いていきました。
いつもは、夜中に吠える犬もその日は静かでした。怯えているのだろうか。ぼくは、自分の恐怖心を犬の気持ちに置き換えて推理していました。
光が明滅し、音もなく軽く振動する物体を見て僕は、あーあっつ、あれがUFOなのだな、と理解しました。いままで映画の中での虚像であったのに、本当にあったのだ、と自然に了解したのです。
その内、その物体はいつのまにか光を消して、音もなくどこかに飛び去って行きました。
ぼくは、その物体の動きを追おうとしたのですが、飛び立つ一瞬の強い光で何も見えなくなり、その光が消えると闇の中には何も残っていませんでした。いつものような夜の風景が残るだけでした。
それが僕のUFO体験です。見ただけですから、体験だといえるのかどうか、また、僕以外にそれを見たという人もいませんので、本物のUFO体験だと言える自信もありません。
それからの僕は、夜中に突然目が覚め、外の夜空を覗く習慣ができました。その時はいつも流星のようにすっと飛び去っていくUFOの軌跡を見つけるのです。なんらかの合図を送っているのだとはわかるのですが、何を伝えようとしているのかいまだに不明です。
そのうち、分かる日が来ると信じています」
話し終えて僕はホッとした。
僕の話に二人はどう思ったのだろうか。酔っ払いのたわごとだと思ったかもしれない。僕としては、「空飛ぶ豚」「豚の鳴き声」に匹敵する話を話し終えたことに満足した。
陶芸家先生は、ニコニコしながら、「いやー、かなり奇妙な体験をしたね。もしかすると、君はいつの日か宇宙人とコンタクトできるかもしれないね」と真顔で言った。
僕は逆にびっくりしてして、間の抜けた返事をした。「まあ、そうですね」と。ついでに「空飛ぶ豚みたいな話ですよね」と余計なことを言ってしまった。
それでも陶芸家先生はニコニコしている。
「それじゃ、わたしも君に負けないくらいの不思議な話をしないといけないね」と陶芸家先生は白くなった口ひげを人差し指でなでながら遠くを見つめて話し出した。
「わたしがまだ二十歳前後のころの話だよ」
(続く)