ショットなストーリー

一枚の写真から浮かぶショートストーリー

この道はどこに

畑の中の石道 ある晴れた日である。 好天気に誘われて、男は車に乗ってドライブしようと思った。海が見たくなり、西海岸の方向に向けて車を運転していた。 遠くに見える水平線に向かって、道路に沿って運転していると思っていたが、どう間違えたのか、水平線…

13階のエレベーター

エレベーターに写った影 ある週末の真夜中3時を過ぎた時刻の出来事である。 私は仕事での2泊3日の旅行を終え、自分の住んでいるマンションに帰って来た。飛行機が遅れ、こんな時間になってしまっていた。 マンションビルのフロアーに入り、暗証番号を押し…

僕はノラ猫だよ、名前は野良。

ノラ猫の野良 僕はノラ猫だよ、名前は野良。名前は自分でつけた。 誰も僕のことを「野良」と本当の名前で呼ばず、「タマ」、とか「ミケ」とか「ゴロニャ」とか勝手に名づけて呼んでいる。 僕の大好きな魚などをあげるなら、「ニヤッ」と鳴いたりするが、普段…

ピノキオ鳥の綱休み

ピノキオ鳥の綱休み 一羽の鳥が海を渡って来た。何百万海里の海を越えて北の大陸から南の島に飛んできた。 クチバシのとがった三角頭の細身で、まるでピノキオのように木で作られたような、変わった鳥だった。鳥は疲れたのだろう、桟橋に停泊中の船の係留ロ…

楽園

楽園(アンリ・ルソー風?) 南の海にはぽっかりと小さな島が数個並んでいた。 真っ青な空に黄色い太陽が輝き、大きな緑の樹木が生い茂り、真っ赤な花が咲き誇る地上の楽園。 手をのばせば身近に黄色の食べ物があふれ、川には手でつかむことのできる程の無数…

灯台島の謎 2

灯台 2 「財宝箱」は跡形もなく消えていた。 誰があんな重い箱を持っていったのだろうか。Sは朝早く起き、「財宝箱」がなくなったと大騒ぎした。だが、二人は何食わぬ顔でまるで何も無かったかのように、「それがとうした」と平気な顔をしているフリをして…

灯台島の悲劇

灯台 1 数十年前の話である。 その灯台は離れ島にあった。 本島から船で2時間、周辺1㎞の小さな無人島は、海峡が激流のため航海安全用に灯台が設置されていた。3名の灯台守が3か月分の食料、燃料などを積み込み灯台を管理・運営していた。 3月から3か…

戻り橋

橋 隣町M町に行くのには、その橋を渡る必要があった。 その橋はそれほど長くないが、車が一台しか通れない横幅の小さな橋だった。だれもが、昼間でもライトを照らし、軽くクラクションを鳴らし向こう側に合図を送り、車の鉢合わせを防ぐようにしていた。 一…

フライドフィッシュ定食

フライドフィッシュ ある小さな島のお話です。 南の小さな村に小さな港があった。数人の漁民が小さな船で遠くの海まで漁をすることがあった。太平洋の赤道近くの海にまで魚を釣りに出かけるのだった。 真夏の天気のいい日の出来事である。あまりの暑さに水温…

十字路交差点事件

十字路交差点 ー2019年10月1日のことである。 人通りの少ない交差点である。 「車の種類はわかっているのか。」 「まだ、分かっていません。」 すべての車が動き出した。 「どの車に乗っているのだろうか。」 「あの車が怪しいんじゃないか。」 「そ…

金豚が空を飛んだ 3

豚のグッズ ー社会にまだインターネットが普及しない時代のことだよ。ワープロもなく誰もが手書きで文字を書き、家庭に一台の黒電話の時代だねー ーこの島は特に遅れていた。戦争が終わて30年近く異民族に支配され、やっとJ国に吸収されて2年後のころのこ…

金豚が空を飛んだ 2

金豚グッズ 酔いもまわってきた僕はなんだかいい気分になっていた。ここは、ほら話が流通する場所である。あるいは、礼儀としてまず自分のほら話を一篇語るべきかなと変な納得をした。 僕は二人に向かってほ次のような話をした。 「ある日のことです。僕は夜…

金豚が空を飛んだ。

金豚グッズ 『紅の豚』(宮崎駿)の主人公、ポルコ・ロッソは自分の飛行機乗りの経験から言う。 「飛ばねぇ豚はただの豚だ」 だが『不思議の国アリス』では豚が飛ぶことはあり得ないこととして意味づけている。 「わたしにも考える権利はあります」と言うア…

明けもどろの花が咲いた

2020年 遅れ初日の出 2020年、早朝6時10分。 突然携帯電話のアラームが鳴った。 外はまだ暗い。東の海を臨むと厚い雲がかかっているように見える。初日の出は拝めないだろうと思った。 7時ごろになると分厚い雲が白く輝いてくる。 8時を過ぎる…

見えざる壁

タイル壁 増殖するタイル壁が目の前をおう。 Kは唸った。 「俺はタイル張りの壁に閉じ込められていたのか」 ・・・ Kは会社に行くためにいつものようにバスに乗った。バスは少し遅れてバス亭に着き、ドアが開いた。KはICカードを読み取り機にピット押しバス…

メガネ

眼鏡 面白い話を聞いた。 先日ある熱い国に旅行に行った人の本当の話である。 ホテルの従業員は部屋に置いてあるセイフティボックスをいとも簡単に開けて、中のものを取った。 セイフティボックスにメガネを預けていた客は、中をみてメガネがなくなっている…

割れた茶碗

割れた有田焼 茶碗が割れた。食器を洗っているとき、石鹸にまみれた茶碗をすべらせて落とし割った。一瞬のことだった。軽く落ちたと思ったのにパリンときれいにちいさな2片を作り割れた。 その茶碗は数年前、ある有田焼専門店で買った。手に取ってみてあま…

その先には何にがある

季節はずれのビーチ ここはサイハテの島、南端孤島の西の果てにある漂流島。 草木も生えぬ荒れ地に枯れ木が一本立っている。流木が西のかなた太平洋から流れ着いたのだろう。海藻の緑が白い砂地に埋められていく。 空と海が交差する水平線、その先になにがあ…

事務所の中のジャッカル

メキシコの守護犬 ある年の初夏の一日。 携帯が静かになった。「ハーイ、何している。退屈でしょうがないよ。どこかに行こうよ」 いつもの気まぐれなウサギからのメールだった。 俺は疲れていた。今日は日曜日。昨日は土曜日、にもかかわらず会社に出勤して…

八本指のエビの足

皿に残されたエビフライの尻尾 猫の指の数が何本あるかご存じだろうか。前足が5本、後ろ足が4本あるのが通常である。 作家のヘミングウェイの愛したネコには前足の指が6本あった。それを「ヘミングウェイ・キャット」と呼び幸運を招くネコだと言われてい…

青空のディスタンス

鉄塔コンビ ちょっと太めのR鉄塔と、細めのA鉄塔が二つ並んでいる。 向こうの山が小さく見えるほどの威風堂々の鉄塔コンピ。 「雨にも負けず、風にも負けず、(雪にも)夏の暑さにも負けぬ」丈夫な鉄骨を持ち、鉄塔は街中の家に電気を送っている。 R「俺たち…

比蛇川の謎

比謝川大橋下の比謝川 K市の中心を流れK動物園の中にある溜め池に起源をもち、K町に下り、東シナ海に流れる、長さ3キロメートルの比謝川は、梅雨時の雨に充分に水分と養分を与えられ、生い茂る雑草・雑木は密林のように川の岸辺を覆っている。 川は、灰…

ピンクの城門

遊び場 公園の階段は赤、ピンク、緑のセメント丸椅子が並び、ピンク色の壁門が段々じょうに延びている。 一匹のサルがピョンと壁門からセメント丸椅子へ飛び跳ねて、空に飛んでいった。 空にはたくさんのサルが浮かんでいる。 足をバタバタさせ、手を水平に…

大人も出ずに居られない街(ディズニーランド)

ネオン輝く街 清三の耳が聞こえなくなったのには訳がある。 清三が、三歳の時である。 母親が添い寝をしていながら居眠りをした。そのあまりにも大きないびきに清三は耳をふさぐしかなかった。耳をふさいでも母親の大きないびきは清三の脳の中にまで響く程で…

三通の手紙が来た

郵便ポスト 三通の手紙が来た。 一通は石川県から、二通目は山梨県から、三通目は福島県からだった。 一日おきの消印だった。送り手は石川県から山梨県、そして福島県と移動しながらこの手紙を送っている。 一通目の手紙は「6月24日は晴れるだろう」と書…

右が左、左が右・・・

カーブミラー 男は車を運転していた。 T字路の曲がり角にさしかかった。男は前方のカーブミラーを見ながら一時停止した。カーブミラーには前方道路の左側に車はなかった。男はT字路をスローで右折する。対向車はない。 その時だ、急に左側から高速スピードで…

赤バナーのレイに囲まれて

赤いハイビスカス そこは三方を壁に囲まれた小さな広場だった。 その小さな広場は、私が友人・Kを訪れたK市にあった。 五年前に知り合ったKはこのK市に住んでいるはずだった。 1 東京で知り合ったKは三年前故郷に帰っていった。せっかく知り合って仲良くな…

ワイワイガヤガヤ

グレムリングッズ 男はゲームセンターに足を運んだ。 何年ぶりのゲームセンターだろう。 昔のゲームセンターとは様子が違う。 小さな子供づれの家族や子供たちが多い。 なんだか健全な場所になっているようだ。 男は一つのゲーム機に目を止めた。 昔映画で見…

影の影響

影を写す 男は影を写した。 影を写して、その形を保存すると光の部分、つまり本物の肉体が滅びないと古書にあった。 自分の影を写し続けると、その影が形を保ったまま肉体の老化を防ぐと言うのだ。 まるで「ドリアン・グレイの肖像」のようだ。 ドリアンの場…

架空座談

三頭会談 A おう、ひさしぶり。 B そうだね。何年ぶりかな? C もう、3年はなるよ。 A もう、そんなになるのか。 C だいたい、そうだね。 B でも、ひさしぶりに会ってもお互いあまり変わらないね。 A いつもここで会って、この椅子にすわって喋っていたな。 …