ショットなストーリー

一枚の写真から浮かぶショートストーリー

灯台島の謎 2

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灯台

               

「財宝箱」は跡形もなく消えていた。

 誰があんな重い箱を持っていったのだろうか。Sは朝早く起き、「財宝箱」がなくなったと大騒ぎした。だが、二人は何食わぬ顔でまるで何も無かったかのように、「それがとうした」と平気な顔をしているフリをしていた。

  Sはピンときた。「俺が寝ている間に、二人でどこかに運んだんだな」と半分寝ぼけた頭をフル回転させて考えた。

 MはSの動揺を察して言う。「海の漂流物は、会社の規則で裏の倉庫に保管することになっている。お前が起きる前に、俺たち二人で箱は裏の倉庫に持っていったよ。何か、財宝でも入っていそうだと、俺たちが妙な気をおこさないよう、隠したのさ」

 Kも情けない顔で、まるでSに対し何か悪いことをしたかのように言う。「君の疑う気持ちは分かるが、チャンと手続き上の行動をしたんだ。一人だけのけ者にされたと思うな。あまり、気にするなよ」

 Sは納得はしないが、先輩二人に逆らうことはできないと感じ、信じるしかないと思った。二人が言うことが本当かどうかは、後で、倉庫を見ればわかることだ。SはKに頷いた。

 Sはいつものように島の周りを点検した。今日はなんの変化もなかった。風もおだやかで、春のあたたかい一日になりそうだ。

 遠くをみると、雲一つない青空に海鳥が飛び交い、波が静かにうねっている。どこにも船らしきものは見えなかった。昨日のボートの漂流は偶然のものだろう。どこか近くで船が沈没したのかもしれない。Sはボートの箱のことを思い浮かべ、それが、どこから来たのか推理する。

 本島からボートで船出したとは思えない。ましてや、あんな重い箱を積んでボートを漕いで海を渡るなんで無謀だ。もっと大きな船で運んでいたのを、ボートに乗せ換えてどこかに持っていこうとしてボードが遭難したのか、それとも、船自体が遭難して、ボートに箱を積み込んでいるうちに船が沈没してしまったのだろうか。そのどちらも人がいないとすると、ボートに箱を積み込んだとたん船が海に飲み込まれたのだろうか。

 その船はどんな船だったのだろう。どこか近くに秘密の島ががあって、昔の海賊が隠していた財宝を発見したのだろうか。

 Sはいろいろ考えるが、あまりにも突拍子もない空想物語に、自分でもあきれてしまっている。今時、そんな時代でもあるまい。あれは、ただの「財宝箱」もどきのフェイクに違いない。だれかが、冗談で海賊ごっこでもして流したのだろう。Sは無理に自己納得して安心したい気持ちであった。

 夜になると少し冷える季節である。気温は低かったが、風はなかった。

 漂流物が島にたどり着いて三日が過ぎた。

 三日目の真夜中である。

 風にあおられたのでない船が、それもかなり大きな船が、小さな島の周りを何度も何度も周回している。だが、灯台の三人は寝ているのだろう、気づかない。大型船は静かに島を3週した後、灯台のよく見える近海で無線連絡もせず待機している。大型船は、何かを待っているようだ。

 船の中には数人の人影が見える。何人かが島の灯台の方に目を向けて、どうしたものかと手を大きく振って言い合っているようだ。そのうちの一人は、手に望遠鏡をもって灯台をじっと観察している。

 船は静かに停泊所に近づく。船は音もなく錨を下し、三人の大男が船から降りてきた。真夜中の三時ごろである。時、あたかも草木も眠る丑三つ時、人も寝るが、盗人は稼ぎ時である。時間は人それぞれに使い道があり、寝る時間も人それぞれである。

 三人の大男は、灯台までの道のりを夜の家業のように静かに、確実に歩いていく。灯台への道は一本だけである。月だけが、彼ら三人の大舞台を迎えるように照らすが、無観客の客席は夜の寒気が鎮める。

 灯台のライトは、夜空の遠くの海を照らしている。灯台の下には、知るべくもない人影が三つ、大きく月夜に照らされている。影絵のように長く伸びた影は、無音の月音に小さく震える。

 三人が音もなく訪れたのは、お届け物のためではなかった。