青空のディスタンス
ちょっと太めのR鉄塔と、細めのA鉄塔が二つ並んでいる。
向こうの山が小さく見えるほどの威風堂々の鉄塔コンピ。
「雨にも負けず、風にも負けず、(雪にも)夏の暑さにも負けぬ」丈夫な鉄骨を持ち、鉄塔は街中の家に電気を送っている。
R「俺たちチョット働きすぎじゃない」
A「まあ、そう言うなよ。俺たちが休むとみんなが困るんだよ」
R「それにしても24時間、365日立ちっぱなしの働きづくめはキツイね」
A「それは仕方がないよ。人々が安心して生活ができるように俺たちが、頑張っているわけよ」
R「でも、最近、腰に痛みが走るようになってね。たまには、横になりたいよ」
A「そうだね。横になっても電気が送れたら楽だね。俺、足が細いからバランスたもつのに苦労するよ」
R「夜になったらみんなが眠るように、俺たちも真夜中は暇だから横になってもいいかもしれない」
A「そう、どうせ俺たちが横になっても気づかないさ。電線をチョット延ばしてくれたら助かるね」
R「まあ、そうだね。送電の量を減らしてくれたら、少し居眠りしても大丈夫かもしれない」
A「真夜中の漏電も減るかもしれないよ」
R「そうだな。夜の火災は怖いからね。気づかないうちに一気に燃え広がるから危険だよ」
A「それに、台風の時には立ちっぱなしは大変だよ」
R「そうだね。千葉の台風で俺たちの仲間が二基倒れたからな。風の強い日は、横になっていいいという工夫がが欲しいね」
A「まあ、人間は俺たちのことを風景の一部だと思って、あまり気にしていないかも知れない」
R「そう、この写真のようにインスタ映えするからね」
A「台風の時の停電や近くにくると音がうるさいとか、自分たちが不便になった時だけ気づくぐらいだね」
R「まあ、いいじゃない。誰にも気づかれない時が一番安心な時だということだよ」
A「そうだね。静かに、静かに風景に溶け込もう」
R「そうしよう」
秋空の中、二基の大きな鉄塔が、小さな声でおしゃべりしていた。