ショットなストーリー

一枚の写真から浮かぶショートストーリー

この道はどこに

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畑の中の石道

 

 ある晴れた日である。

    好天気に誘われて、男は車に乗ってドライブしようと思った。海が見たくなり、西海岸の方向に向けて車を運転していた。

 遠くに見える水平線に向かって、道路に沿って運転していると思っていたが、どう間違えたのか、水平線が消え、突然、畑の中の細い道に出てしまっていた。

 細い道は畑と草原に覆われている。かろうじて車二台がすれ違う程のぎりぎりの細さである。

 男は車を引き返そうとも思ったが、たまには冒険もいい、行ける所まで行ってみよう、めったいない冒険心が湧き出た。そのままハンドルを八の字に構えて前進した。

 細い道が続き、行先が行き止まりのような、奥には木の生い茂った荒れ地の広場に出た。それ以上は車では進めそうもない。手前の脇道には、石を敷き詰めた歩道が草むらの間に延びている。

 男はその歩道をちょっと歩いてみようと車を降りた。あたりは畑はあるが人はいない。ここが何処であるのかの標識もない。そもそも畑がある以上誰か持ち主がいるはずで、そう危険な場所でもないだろう、そのうち人も出てくるだろう。

 男はそう推測して、敷き詰めた石を一歩ずつ踏み込んで歩いた。丁寧に敷き詰められた石道は、おそらく誰かの邸宅につながっているはずである。人の良さそうな御主人が出たら、お茶でもいただこうか、男はのんびり考えながら歩いていった。

 男はそれから15分ほど歩いた。前をみてもそれらしき豪邸は見つからない。なにか、勘違いしていたのか、男の意識に変化が出てきた。少し不安になってきた。「こりゃ間違った。ここは何もない、少し暗くなってきた。たぬきが出そうだ、早く引き返そう」

 そろそろ疲れてきた。男はもと来た場所に引き返そうと右側を向いた。すると、右側にはさらに細い道があり、その奥の小高い場所に小さな丘があった。その丘の真ん中に階段状の道がある、その小高い所の一部はちょっと休めそうに見えた。水の音もかすかに聞こえる。

 男は、好奇心にかられて少し寄り道をして行こうと思った。

 土の階段はハッキリ七段あった。一段一段昇るたびにギシギシと音をたてる。男はその音が、なにか合図を送っているように聞こえるが、葉っぱが散らばっていて、その葉っぱの間に水がすこしたまって音がするのだろう、そう解釈した。

 だが、階段は音がするだけではなかった。階段は一段一段昇る間に時間が十五分ずつ過ぎていっているのである。ギシギシの音は時間の早送りの音であり、フィルムの早送りのようなものである。誰ががフィルムを早送りしている?

 男はそれに気づかない。

 丘の上に昇った。男は少し疲れた感じがした。「まさか、たった七段で、疲れるわけがない」

 小高い丘程度だと思ったが、丘の向こう側に回ると、そこは山のてっぺんであった。夕日が水平線の向こうに沈んでいこうとしている。「えっつー、もうこんな時間になっていたのか」男は時計を見た。確か、家を出たのが、1時頃で、2時間運転していてもまだ3時ごろの計算である。夕日が沈むはずはない。男の計算と向こうに見える景色とは時間が合わない。

「早く車にもどろう」男は少し焦った。だが、せっかく登ったのだから(登った?、たったの7段で大げさすぎる。でも足の疲れは相当登った感が十分ある)、男は少し休憩しようと思った。

 こだかい丘の中央には円形の休憩所のようなものがある。木製のテーブルを囲むように円形の椅子が四隅を囲む。なぜか真ん中に堂々としたタヌキがそれぞれの椅子に向かうように置かれている。高さ40センチメートル程の異様に大きな置きタヌキである。

 タヌキの目はちょど座っている人の目線である。何か、らせん状のグルグル巻きの目玉である。それを見ていると目が回りそうで、男はすぐに目をそらし、反対側に向いて座った。

 男はタヌキの目に、なぜか、映画シーンの早送り(時間経過の仕掛け)を連想した。「やはし、俺はタヌキにばかされている」

 水の音がしたと思ったが、川はなく、どこにも湧き水は出ていそうもない。「もしかしたらたら幻聴?」男はぞっとした。

 休むのを辞めて、急いで階段の方に向かった。階段に足を踏み入れて歩むが、なかなか前に進まない。階段は無限に続いている。「そんな、馬鹿な。階段は立ったの七段しかなかったはずなのに。どうなっている」

 男は後ろを振り向かずひたすら、足元の階段を一段数えながら降りて行った。

 100段、200段、500段・・・

「まさか、うそだろう。これが本当のマサカの真坂か?」

 ・・・1000段、男はもうそれ以上は数えることができなかった。男の足はガクガク、背中はぶるぶる震えている。汗は全身を濡らし、呼吸も荒くなってくる。途中で休む気力もなく、男は転げる落ちるように前に進んだ。

 遠くで聞こえる音は、妙な音階を刻んでいたが、なぜか、聞き覚えのある調べだった。

  ~♪ しょう しょう しょうじょじ
    證城寺の庭は
    ツ ツ 月夜だ
    皆(みんな)出て 來い來い來い
    己等(おいら)の友達ァ
    ぽんぽこ ぽんの ぽん ~♪ 

                                         (『證城寺の狸囃子』詞:野口雨情)

 ・・・

 翌日、村人によって男が倒れているのが発見された。

 男は意識を取り戻したとき、「ぽんぽこ ぽんの ぽん」と何度も同じ音階をくり返し歌っているだけだった。

 男の歩いた石道は行き止まりであり、「行き止まり」の標識が立てられていた。そばには小さなタヌキの像が4個置かれていた。

 『ここは昔は有名なタヌキ林であった』との標柱が朽ち果てた姿で、半分倒れていた。