ショットなストーリー

一枚の写真から浮かぶショートストーリー

僕はノラ猫だよ、名前は野良。

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ノラ猫の野良

 

 僕はノラ猫だよ、名前は野良。名前は自分でつけた。

 誰も僕のことを「野良」と本当の名前で呼ばず、「タマ」、とか「ミケ」とか「ゴロニャ」とか勝手に名づけて呼んでいる。

 僕の大好きな魚などをあげるなら、「ニヤッ」と鳴いたりするが、普段はそれほど人間に近づかない。面倒くさいのだ。

 ノラ猫になって三年。僕も以前は家ネコだったよ。大きな家に飼われていた。

 うまれた時は、五匹の兄弟猫、お母さん猫と一緒にその家で育てられたけど、ある日、外に出たら迷子になり家に帰れず、そのまま、家族と別れて僕は一人ぼっちになった。

 最初は、不安で心細く、小さな声で鳴き、公園などの草むらの中などで隠れていたが、大きな猫の動きをまねて、人間というおせっかい屋さんにエサを与えられているうちにノラ猫生活が身に着いたのだ。

 だから、人間はそれほど怖くはない。でも、小さな子供とか、何かしようと近づいてくる人間、例えば、じゃらじゃらなどでからかい、エサを与えて写真を撮ろうとする人間は面倒くさいよ。

 小さな子供は特に僕を犬君と間違えて、お手などをさせようとするからいやだよ。

    僕は、犬君みたいに人間様に仕えるように訓練されていないから、そんな芸当などはできなと拒否するのだが、何度も何度もせがむので、お手の真似をすると喜んで、繰り返し欲求するものだから苦手だよ。

 二度目は、見なかったふりをして知らんぷりをする。すると、人間の親はなぜか納得して「やはり、ネコは冷たいね」とわかったような口をきく。いい気なもんだ。人間様は分かってないね。犬君の息も絶え絶えの演技を察してくれてもよさそうなもんだよ。

 といっても、僕たち猫族は、犬君たちに同情はするが、そうたいして共感はしないよ。

 僕たちがみるところ犬君はどうも人間様に媚びすぎている気がするんだよ。まあ、それは、仕方がないことかもしれない。世の中には野良犬は存在しないことになっているからね。犬はみんな人間の御主人様と一緒に家犬としか生きられないからね。

 でも、僕たち猫族のノラ生活もそう楽ではないよ。

 家ネコの生活の苦労は記憶がないからあまり言えないが、ノラ猫の生活は、自由とともに自主・自立が要求されるから、フラフラ自由でのんびり生活は無理だよ。基本的には狩人の心構えだね。

 自分の分は自分で、食い扶持は自分で探さなきゃならないからね。自由には自立が対語だよ。結果はどうなるか誰もわからないから、誰も責任については言えないさ、神様も関知しない自然まかせということさ。

 ああ、僕の冒険談を聞いてくれるかい。特別に君には僕の話しをしてあげよう。

 間違って家出してしまった僕は、帰る道を探せず、トボトボ家々の壁づたいに歩いて行った。塀を乗り越えて、大きな道に出た。さらに、大きな道路に出て、初めて車をみて、そのスピードと大きさににビックリ、毛が逆立ったよ。間違って轢かれたら、次々に車の下敷きになってせんべい布団だね。その光景は何度もみたよ。

 家の外は危険だらけだと思った。僕は早く帰りたいと願った。心細くなって、足も痛くなって、小さな祠のそばで休んでいた。

 僕は疲れてそのまま眠ってしまった。何時間も眠った後、どこからかいい匂いがするので、目を開けると、目の前に魚の切り身を差し出すおばさんがいた。僕は、おそるおそるその切り身を食べた。とても美味しかった。どうも、天ぷららしい。家で食べた覚えがあった。

 そのおぼさんはまた、たくさんの魚の切り身を周辺の地べたに撒いていく。すると、いままでどこかに隠れていたのか、たくさんのネコがそのエサをともめて這い出してきた。10匹ばかりの僕より大きな猫がおばさんを囲んでエサを食べだした。

 僕はその猫の集団をみてホッと心が落ち着いたよ。ここはネコの国なのかと思った。でも、だれも僕のことを気にしない。自分のエサを食べるのに精いっぱいである。おばさんがいなくなり、餌がなくなると、自然、猫たちはどこか自分の棲み処に消えて行った。

 ぼくはまた一人ぽっちになって、トボトボと歩き出した。行く当てもないので、自然、おばさんの歩いた方向へ歩き出した。

 ある大きな家の門の前を通ると、大きな犬が吠えた。僕は初めて犬を見たので、その時同じ仲間だと思って、仲良くなろうと近づいたのに、さらに大きく吠えたので、僕は後ずさりした。一瞬にこの犬はいやな奴だと思った。

 家犬は融通がきかない。自分を人間の仲間だと思って勘違いしている。犬君は勘違い野郎が多いと思う。これは僕の偏見だ。気にしないで欲しい。

 犬に吠えられて慌てて逃げだしたのでおばさんの行方を見失った。しかたななく、またトボトボ一人で歩き出した。

 たどり着いたのが今いる公園だった。

 やはり僕は歩き疲れたので、公園の木の茂みに隠れて休んでいた。

 すると、僕より少し年上の気品のありそうな猫が近づいてきた。それがシャム猫のシャム君だった。かしこそうな顔に俊敏そうな肉体がかっこよく見えたよ。

  おや、暗くなってきなね。今日は僕の話はここまで。そろそろ、僕のハンティングの時間だからね。