ショットなストーリー

一枚の写真から浮かぶショートストーリー

八本指のエビの足

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皿に残されたエビフライの尻尾

   

 猫の指の数が何本あるかご存じだろうか。前足が5本、後ろ足が4本あるのが通常である。

 作家のヘミングウェイの愛したネコには前足の指が6本あった。それを「ヘミングウェイ・キャット」と呼び幸運を招くネコだと言われている。

 海を愛したヘミングウェイは船に乗って釣りに行くことが好きだった。

 知り合いの船乗りの船長からもらったネコには6本の指があった。船乗りの世界では、ネズミをとるネコは重宝され、帆船のロープを器用に渡る、それも6本指のネコはどちらもうまく「幸運を呼ぶネコ」としてお守り代わりになっていたのだ。

 ヘミングウェイが譲り受けたネコも6本の指を持っていた。

 指の数が多いネコは幸運を呼ぶ。

 しかし、・・・

 

 私は、とある港町の海産物料理屋にいた。

 私は八時間も車を運転していた。

 朝から、注文の品物を届けるためはるばる、会社から八時間も車を運転してこの港町にたどり着いた。注文の品を相手方の会社に納品してやっと一息ついて、表看板につられて入った店がここだ。

 看板は港町にふさわしく派手な魚介類の絵で装飾してあった。

 私は、朝から食事もせずに八時間、途中ガソリンスタンドで買ったスナック菓子を食べただけだった。もうクタクタで腹がペコだった。

 ノレンをくぐると普通の居酒屋風の店構えで、私はカウンター席に腰掛けた。メニューを見るとやはり魚料理中心の品書きだった。

 私はエビフライ定食を注文した。この地域はエビ養殖が盛んで、養殖エビを主な地場産業商品として売り出している。いろいろなエビ料理がメニュー化されている。

 私はそのタクサンあるエビ料理には目のくれず、見慣れたに簡単なエビフライを注文した。

 チョット遅れて入って来たお客さんもカウンター席の隣に座ったが、同じような一見さんらしく、目をキョロキョロさせていたが、結局、エビフライ定食に落ち着いた。

 私の方が少し早くエビフライ定食が出された。

 大きなエビが四本並び、豪華な感じがした。私は、ゆっくり肉厚のエビをかみしめるように食べた。

 隣の客は、急いでいたのだろう。私よりも後に出されのだが、相当にお腹がすいていたのだろう、あっという間に四匹のエビフライを平らげて帰っていった。

 私は、こんなおいしいエビフライを味わうこともなく早食いするなんでもったいないと思った。でも、初めての客には普通のエビフライだと思ったかもしれない。

 よく見ると、なぜか、皿の横に四つのエビの尻尾が綺麗に並べられている。

「ふん、変わった食べ方だな」と私は気にもせず自分のエビフライを食べ続けた。

 エビフライは美味しかった。今まで食べたエビフライの中で一番美味しいエビフライだった。それも四本もエビがついている、豪華賢覧なエビフライ定食だと思って満足して食べ終わった。

 ふと、横をみるとまだ、隣の客の皿は片付けられていない。エビの尻尾が四尾、皿のあたま?の左側に並べられている。なんだか、なにかの足のように見えてくる。

 私もなぜか、自分の食べ残しのエビの尻尾を皿の左側に並べてみた。

 皿の頭の方に一匹づつ並べる。まるで八つの指が並んだように見える。

 八つの指を持つ動物?

 とその瞬間、突然、皿がガタガタ動き出した。それも、隣の皿も同調したかのように動き出した。

 何か、上の方から引き上げられるように、二つの皿は、交互にカウンターの上から床へと飛びはね、規則正しく前へ前へと進んでいく。まるで、両足が前進するように並んで交互に進んでいく。八本指の足が交互に前へ前へと進んでいく。

 八本指を乗せた皿が、生き物のように前進していく。私はその足につられるようについていった。二本の足は海の方へ向かっている。

 カチっつ、かちっつと皿の音を立てながら不思議な皿足はコンクリートの道を歩き、桟橋からポトンと海の中に飛び込んていった。

 私も同じように海へ飛び込んだ、と思った。

 とたんに、私は、カウンターにもたれ掛かり、水の入ったコップを転がし、べチャッと水に顔を浸し目が覚めた。

 私はもう少しでカウンターから転げ落ちるところであった。カウンターの皿は何もなかったかように、エビの尻尾が四本並べられていた。

 隣の皿はすでに片付けられている。

 私は慌てて皿を抑え、皿にならんだエビの尻尾四個を口に入れて食べた。

 八本指の足は手の指の数に勝って勝手に歩きだす。

 それは幸運な何かの兆しだろうか。