ショットなストーリー

一枚の写真から浮かぶショートストーリー

金豚が空を飛んだ 3

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豚のグッズ

ー社会にまだインターネットが普及しない時代のことだよ。ワープロもなく誰もが手書きで文字を書き、家庭に一台の黒電話の時代だねー

ーこの島は特に遅れていた。戦争が終わて30年近く異民族に支配され、やっとJ国に吸収されて2年後のころのことだよ。

 J国へのパスポート携帯が必要なくなり、自由に往来できるようになった。若者はだれでもJ国の大都会を目指して行った。とくに首都のTエリアへの移動はまるで民族の大移動のようだった。

 でも、わたしは行かなかった。地元の高校を卒業して1年考えて、逆に父の生まれ育った南の小さな島K村に行くことに決めたのだ。 

 わたしの父の姉、つまりは叔母の家は農家で、サトウキビ業のほかかに30匹の豚を小さな養豚場で飼育していた。まあ、生き物を育てるのは大変だったよ。小さな養豚場だけど、一匹一匹大切な豚だからね。義叔父は丹精に豚を飼育していた。わたしもその手伝いのため、K市から小さな島K村に移り住んだ。

 わたしの生まれ育った街K市は、金網に囲まれた巨大な滑走路を敷き詰めた鋼鉄都市の一部であり、鋼鉄都市に働く巨人族に支配されて発展した街だった。

 鋼鉄都市巨人族は世界中の戦争を請け負って儲け、その巨人族の遊興を担おうと、K市はO諸島周辺の多くの地域から出稼ぎに来る人々であふれていた。人々は、昼間は鋼鉄都市の大工場で働き戦争機械を造り、夜になるとネオンが輝く風俗店の中、昼間の戦争機械の爆音に負けないほどの轟音で巨人たちを歓待していた。

 わたしの家もそんな巨人族の下請けをして生活していたのだ。

 そんな街にいやけがさして、若者は平和国家J国のTエリアなどに移動するのだったが、わたしは、そんな平和とは名ばかりのJ国には見向きもせず緑の島にあこがれたのだった。

 K村は四方を海に囲まれた面積60㎞㎡の小さな島で、人口一万人弱の水に恵まれ農業が盛んな地域だった。

 叔父の豚舎はかなり老朽化していた。豚舎は30匹の豚がいるわりに小さく、暗く、柵に囲まれて窮屈そうにしている豚たちが可哀そうに思えた。巨人族に支配され、小さな島に閉じ込められているわたしち自身を見ている気がしだんだ。

 もっとのびのびと育てられないかと叔父に相談するが、昔からの養豚業になれている叔父にとってはもやはその作業を変える気力も財力もなかった。

 5、6年すると、わたしは独立して、叔父から数頭の豚を分けてもらった。父が祖父から遺産としてもらった農地が、父の離島で今はだれも使わず荒れ地となっているのを譲り受け、放牧地として改良し、豚の飼育場とした。

 豚はね、みんなが考えような愚鈍な動物ではないのだよ。

 豚は、好奇心がつよく土の中を探ってキノコなどを探し出し、餌を見つけるのが得意だ。鏡に映った自分を認識でき、30匹ほどの仲間を認識できる、社会的な動物なのだよ。

 檻の外に出ると一日の60%以上は餌を探し、穴を掘ったり、散歩したりして動き回っている。立ちっぱなしが苦手なのだよ。まあ、イノシシの親戚だから当然だね。

 20種類の鳴き声でコミュケーションをとり、オス豚はメス豚の気を引くため歌を歌うときもあるんだ。

 寝るところとトイレを区別できる。

 母親豚は安全な出産のために10キロメートルも歩き回り、10時間かけて巣をつくる。授乳のときは独特の声で子豚を集める。

 水分補給を求め沼地を好み、泥水で体温を調節し、泥遊びで体の雑菌を防御することを知っている。

 豚は未来に起こることをを予測でき、チンパンジー並みの知能をもっていると言われているんだ。犬やイルカと同じようなものだ。

 そんな豚の習性・能力を考えると、柵に押し込めて、身動きさせず餌だけ与え続けると、ひ弱な豚になるのは目に見えている。それらの豚が病気に弱いのは当たり前で、それを食べる人間にしても病気がちになるだろう。健康な豚は最終的に食肉になるにしても、大切に育てられた安全な肉として、人間が大切に食べるのがいいのではないかと考えたんだ。

 これは、人間の勝手な思い込みかもしれないが、家畜として豚は生き、最終的には人間の血肉になり死ぬ。そして、人間も最終的には灰になるか、骨になり炭化するか、地面に埋められ自然土と化していくから結局は同じことだと思う。

 個体として生きる長さが違うだけで、生命種としてはどちらが長く生きられるかは分からない。

 動物学者のライル・ワトソンは、「豚ほど好奇心旺盛で、新らしい体験に飢え、無我夢中な人類の欲望に応える動物はいない」と言っている。

 そう言われると豚を食べるのを躊躇するかもしれないが、それでも、豚は家畜として育てられているので、人類の一部になると思えば自分を大事にすると同じように、大切な食物として日々食べればいいのじゃないかと思う。まあ、食べないという選択枝もあるけどね。

 養豚業者だったわたしとしては豚肉を食べて欲しいのだけど、食べるときにそういった豚にたいする認識を持っていて欲しいんだよー

                                                     続く