ショットなストーリー

一枚の写真から浮かぶショートストーリー

マンホール地下の謎

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消火栓のマンホール

 

 ドイツでの「ネズミ救出作戦」をご存じだろうか。

 ドイツのとある町で、ネズミの鳴き声(うめき声)が聞こえた。そこを通りかかった小さな女の子が気づいた。太ったネズミがマンホールの穴に挟まて動けなくなって、「助けて!」と叫んでいると言うのだ。

 女の子はネズミが可哀そうになって、家族に助けて欲しいと頼んだ。家族は、ネズミを助ける手立てを知らず、動物愛護団体に連絡した。

 動物愛護団体の職員は実際に助ける道具を持っていないので、近くの消防隊に救助を依頼した。依頼された消防隊員は7人がかりで、マンホールの蓋をあけ、太りすぎて穴に挟まったお尻を押し上げ、無事救出に成功した。

 冬を越すために太ったネズミは、元気よく、マンホールから自分の住処に帰って行ったそうだ。

 害獣であるネズミを救出したことには賛否両論はあるが、救助を依頼したかわいらしい女の子から小さな表彰状をもらった消防隊員は言った。

「まあ、どんな嫌われ者でも命の尊厳はある。僕たちは命を助ける仕事だからね」

 

 僕は、イッソプ物語の「ネズミの恩返し」の話を思い出した。

  

 ある日、気持ちよく眠っているライオンの上にねずみが駆けあがった。
眠りを邪魔されたライオンが起き上がってねずみを捕まえた。すると、ねずみは「助けてください。きっといつかこのご恩はお返しします」と言った。
 ライオンは、体の小さなねずみに恩を返してもらうことなどないと思ったが、ネコ科の気まぐれでねずみを開放した。
 ねずみは何度もお礼を言い、その場から離れて行った。

それからしばらく経った頃、ライオンは人間の仕掛けた網に捕らえられてしまった。
 ライオンが叫び声をあげると、あのねずみに似た小さなねずみがやって来た。

 仕掛けられた網を噛み切り、ライオンを助けた。
 小さなねずみに助けられることはないと思っていたライオンは心を入れ替えて、それからは小さな動物と助けあったのだった。(一部改変)

 

 そして、ここに前出の「ネズミ救出作戦」の後日談がある。

 世界のどこかの町で起こった事件である。

 真夜中、とある町の住宅が密集している住宅街である。誰かが消し忘れた煙草の吸殻の火が捨てられた紙に燃え移った。風が吹いて燃えた紙が飛んだ。密集する住宅街の一軒家に飛び火したのだ。最初は小さなちり箱を燃やしたが、火が強くなって家に燃え移った。少しずつ火は大きくなっていった。

 家の人は熟睡しているらしい。家が燃えているのに気づかない。

 すると、そこで飼われている小さなライオンが大声を上げた。それでも家人は起きてこない。鎖につながれた子どもライオンはうなり声を上げ続けた。

 すると外の方、地下のマンホールの中が騒がしくなってきた。

 なんと、何十、何百匹のネズミがマンホールの蓋を押し上げ、近くから長いホースを持ち出し、マンホールの中の給水口にホースを繋ぎ、ホースを家の前まで持ち上げ、放水を始めた。

 一匹、一匹と百匹近くのネズミがホースを持ち上げ、壁伝いに火に水をかけたのだ。水の勢いは弱かったが、火の気が十分家に燃え移ってなかっので、火を消し止めることができた。

 その後、ネズミ群は急いでホースを外し、給水口を閉じて、マンホールの中に入っていった。何事もなかったかのようにマンホールは閉じられた。

 子ライオンの叫びに目を覚ました家人は、外のちり箱の焼け跡と家の一部が焦げているのを発見したが、水で消し止められたあとがあるが、誰が消したのか分からなかった。

 水の出所を調べてみると消火用のマンホールにたどり着いた。

 家人は消防隊に連絡して、調べてもらったが、良くわからなかった。

 マンホールの周辺はおびただしい水と、ホースが置かれていた。

 消防隊員のひとりがドイツの「ネズミ救出作戦」を思い出した。

「もしかすると、ネズミの恩返しかもですね」

 すると、子ライオンが大きなあくびをしてうなずいたのだった。

 

 そんな事件があってもいいなと思った。