ショットなストーリー

一枚の写真から浮かぶショートストーリー

十字路交差点事件

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十字路交差点

 ー2019年10月1日のことである。  

  人通りの少ない交差点である。

 「車の種類はわかっているのか。」

 「まだ、分かっていません。」

  すべての車が動き出した。

 「どの車に乗っているのだろうか。」

 「あの車が怪しいんじゃないか。」

 「そうだ。あの車の追跡を依頼しよう。」ー

         「ユーチュブ映像『十字路交差点事件』より」

 

 僕はあるユーチュブの映像で気になるものを見つけた。

 僕が住んでいる街にそっくりな交差点の映像であった。2019年10月1日、僕はちょうどこの映像が写された時間にそこにいた。映像を見ると左側の男女ペアが写っているのが見えるだろう。その二人は僕と知り合いの女性である。

 僕は、気づかないうちに写されたこの映像の記憶がある。あの時、目の前を通った白い車の中で女の人が何か騒いでいたような気がしたのだ。その時は、なにか、運転手と喧嘩でもしたのではないかと思っていたのだが、女の人の顔がなにかこちら側に訴えているような身振りに見えたのが不思議に記憶に残っている。

 運転手でもなく、後部座席の隣に座っている男に向かってでもなく、外の僕たちに向かって何か言いたそうな表情で叫んでいたのだ。

 僕と彼女は顔を見合わせて、誰か互いの知り合いだったのだろうかと尋ねあったが、お互い知らない人だった。その女性の悲痛な表情が、いま思えば「助けて!」と叫んでいたように感じられた。さらに、記憶の片隅には、窓ガラスに差し伸べた手はロープで縛られていたように覚えている。

 僕は、このユーチュブがその時の出来事を「事件」としているのに驚き、困惑し長いこと悩み続けた。

 あの時の女性が何か「事件」に会い、僕たちに助けを求めていたのだとしたら、僕たちはすばやく警察に通報すべきではなかっただろうか。彼女のその後が心配である。

 今ではもう手遅れかもしれない。僕は、後悔の念でいっぱいだった。

 僕は、半分の当事者として、この謎めいた出来事を自分で解決しようと思った。手掛かりは、ユーチュブの映像だけである。

 そのユーチューブ映像をよくみると、近くのマンションから撮影されていることが分かる。僕がよく通る交差点から北側にあるマンション風建物は何件があるが、そのうちの一つだろう。

 僕は、そのマンションにどうにか入り込めないだろうかと考えた。入り口がオートロック式であるが、数人の入居者は鍵なしで入っていく。多分、決まった暗唱番号があるのだろう。

 僕は何度か、郵便物を入れるふりをして入居者の行動の盗み見を繰り返した。何度も盗み見しているうちに、その暗唱番号にあたりを付けた。

 数回、暗証番号を繰り返すと、一つがヒットして自動ドアが開いた。しめたと思い、僕はすばやく中に入っていった。

 映像からすると高さ的には高い方だろうと推測して、10階のエレベータボタンを押した。

 10階にたどり着いてエレベータから降りると、右側に長い廊下があり、7つの部屋が横一列に並んでいた。奥の南側の突き当りの部屋から交差点側が見えるだろうと、107号室に向かった。

 廊下の突き当りにあるその部屋は、廊下側からは入り口のドアが左側にあり、右側は胸までの手すりが廊下を囲っており、外が見渡せる。107号室は、マンションの外、交差点側から見ると、部屋の周辺がベランダに囲まれていた。

 107号室入り口付近の突き当りは、壁を越えればそのまま107号室のベランダに通じるはずだ。

 僕は、危険を顧みず、107号室の呼び鈴を押した。誰も出てこない。107号室の住人は、外出中なのだろう。

 僕は、今がチャンスだと、廊下側から必死の態勢で手すりを乗り越え、107号室のベランダに飛び降りた。

 幸い、107号室には人の気配はない。僕はベランダ伝いに、手すりの壁に隠れて南側の窓の方に移動した。そこから、交差点の方を覗くと、まさしく、ユーチュブの映像通りの風景が見えた。

 僕は素早く高さを確認して、南の窓側から写したであろう、映像のポジションでデジカメで写真を写した。

 帰りも、必死の態勢でコンクリート建物の支柱をよじ登り、廊下側に飛び降りた。人に見られていないのを確認して、さりげなく廊下を歩きエレベータで降りてマンションの外にでた。

 添付した写真はその時写した写真である。ユーチュブ映像のアングルと同じであり、ユーチュブ映像は、まさしくここから写されたものであることが証明された。

 僕は今日、107号室の住人にこの写真を添付した手紙を郵便ポストに入れた。どんな反応が来るか楽しみである。

 僕はいま、その反応によってこちらの行動を決めようと考えている。 

   

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