ショットなストーリー

一枚の写真から浮かぶショートストーリー

メガネ

f:id:higeozira4242:20191222200849j:plain

眼鏡

 

   面白い話を聞いた。

 先日ある熱い国に旅行に行った人の本当の話である。
 ホテルの従業員は部屋に置いてあるセイフティボックスをいとも簡単に開けて、中のものを取った。

 セイフティボックスにメガネを預けていた客は、中をみてメガネがなくなっているのに驚いて従業員に言った。
「あのメガネはたいして高価ではない。でも、メガネがないと一日とて生活できない私にとってはとても大切なものなので、安全なセイフティボックスに仕舞って置いていた。

 メガネがないとホテルから出る事もできない。知っていたら探し出して欲しい」
 しかし、その従業員は答える。
「このホテルには、お客様の大切な物をセイフティボックスから盗むような従業員はいないはず。私に言われても困ります」
 客は心配そうに言う。
「あなたが取ったとは思いません。誰かが勘違いして、セイフティボックスに大切な物を預けるのは危険だから、と思いやりをもって自分で預かっているのだと思う。

 でも、それは、大した眼鏡じゃないので、大切に預かる必要もなく、安全じゃないセイフティボックスに置いても取られる心配のない値打ちのないものだから、預けていたのだと伝えて欲しい」
 従業員は困った顔で言う。
「もし、私の知り合いが間違って高価じゃない眼鏡を持っていたら、返すように言うよ」
 客はにっこりして、その従業員に安くないチップを与えた。

 翌日、セイフティボックスに18金で縁取りされた眼鏡が何もなかったかのように入っていた。
 …
 さらに、次の話も聞いた。別の客が同様な事件にあった。

 この客は以前、ホテルの従業員の対応を聞いていたので同じように尋ねた。
 すると、従業員は同じように困った顔で言った。
「もし、私の知り合いが間違って高価じゃないメガネ(グラース)を持っていたら、返すように言うよ」
 客は、ニヤッとして南の国の人に少額のチップを与えた。翌日、セイフティボックスにはメガネの縁を取り外したグラース(レンズ)だけが残されていた。

 さらに、次のような話が加わる。
 ある熱い国の従業員は、お客のセイフティボックスをいとも簡単に開けるが、そのセイフティボックスを従業員のためのお布施箱だという意味に解釈しているらしい。
 それを知らない日本人はお客様のためのセイフティボックスと勘違いして客の大事な物を預ける。その大事なものは従業員に対するお布施だから、当たり前のように従業員は取って行くのである。

 だから、くれぐれも、セイフティボックスには大切な物は預けてはならない。せいぜい、縁のない利用価値のないレンズ(虫眼鏡)を預けるべきである。

 もしかすると、今までの恩返しに、虫メガネと交換されたコガネムシが18匹残されているかもしれない。

 そのとき頭の中に次の童謡が思い浮かぶだろう。

 ♪~黄金虫は金持ちだ 金蔵立てた蔵立てた

   飴屋で水飴買って来た

  黄金虫は金持ちだ 金蔵立てた蔵立てた

  子供に水飴なめさせた~♪

    (「黄金虫」作詞:野口雨情 作曲:中山晋平