テーブル番号
男は一人でその店に入った。
渡された座席番号は44番。
その店は商品が回転しながら客の前に提示され、その商品を気に入った客が勝手に取っていいことになっている。または、タブレットに商品が提示され、注文画面を押すと商品が回転ラインに乗って客の前に来る、その時、商品画面が表示され音声で知らせてくれる。それをすばやく取る。
男は商品を取り損ねた。
お知らせの音声と画面を確認している間に商品は男の前をすっと通り過ぎて行った。
タイミングが悪いのか、次に注文した商品も取り逃がしてしまった。
そのつぎのもだ。三回目だ。
男は焦った。
これではいつまでたっても商品にありつけない。
男は考えた。
まず、目の前を回転していく商品を取る練習からはじめよう。
一品目をゲット。
二品目を取り上げた
三品目を無事奪取。
これで完璧だ。
男はそう思った。
これで自分の好きな商品が選べる。
男はタブレットの商品欄を開け、目当ての商品を選び注文した。
心を落ち着け、耳をすまし、目は回転するラインとタブレットの画面を同時に注視した。心は止水明鏡、耳はウサギの耳、目は出目金の目になって息を止めた。
時は流れ、静かに回転ラインに乗った商品が向こう側からヤッテくる。
五、四、三、あれっつ、音声は流れず画面も表示しない、二、一と商品は男の前を通りすぎ、離れた客がそれを取り上げた。
男はうなった。
これは難芸だ。釣り人以上の精神と技量がいる。
男は諦めた。
目の前をゆっくり流れていく商品を取り上げて満足した。
以上は、僕の友人の話である。
友人は言った。
「寿司を食べるなら寿司定食がいいいね」
そして、僕は思った。
44番とは孜々(しし(熱心に努めはげむ)空しのことであったのだと。